躾と三兄弟。

「トリックスター」に出演の、小野坂貴之です。

さて、私の騙された記憶について、ちと考えてみる。

子供の頃の私は、とても信じやすい子供だった。ように思う。「信じやすい」と書くと、とても素直で良い印象を受ける場合もあるが、言われたことを「そーなんやへー」と真に受けてその記憶から離れられぬ、ちと鈍いクソガキだったのかもしれぬ。

さて、私は男三兄弟の長男である。自由奔放に育てていただいた。自由奔放に育てていただいた分、いたずらも盛大にやった。そんなとき、幼き兄弟へ母が言い放つ言葉はこうだ。

「悪さしよったら子取り婆さんが来るぞ」

この母の言葉に、我々は恐ろしく怯えた。どのくらい怯えたかというと、泣き叫ぶ近所の子供たちの首に縄かけ、魔女のような鼻をした老婆が、身の丈もありそうな出刃包丁を携え、空から赤黒い雲を割ってやって来るのを想像してしまうほどである。

なので、この殺し文句は非常に効果をあげた。我々は思考を止めて黙り込み、そして身体の動きもおのずと止まるのだ。
(翌日、我々はまた暴れ始めるので、効果はいたって短期的なものではあったが)

さて、この「子取り婆さんを活用した『悪いことするな』」という躾には、つい最近気付いた後日談がある。それは、この「子取り婆さん」が地元香川の史実に基づいた事実であるらしいということだ。(この史実はまた別のお話、とする)

母の放ったこの殺し文句。幼き頃は真に受けて「真実」と受け止めた。年齢を重ねて、これは躾のための「嘘」だったのだと思っていた。だが、実際は悲しい史実を踏まえての「事実」であったのだ。

私の中で二転三転、頭の中がぐるぐるする。信じて騙されたと思っていたことが、反転してさらにまた裏がある。まるでメビウスリングのその上を走っている気分。まっすぐ走ってたと思ったのに、どうして回ってるんだこの野郎。

ああ、これと似たような感覚をぜひみなさまにも味わっていただきたい。来月上演の「トリックスター」、劇場にてお待ちしております。